伝説なんて、怖くない


     10



相手が異能を繰り出さぬうちは、微妙な見得が働くか、
自分からは例の“重力操作”の異能どころか
大猩々ばりの怪力もわざわざ出さぬ中也だろうと踏んでおり。
愛し子の敦が不意を突かれて攫われた格好になったため、
いかにもな一触即発、微妙な空気となったのが内心危ぶまれたものの。
太宰がその巧みな口説で、相手を煽ってみたり脅してみたりで時間を稼ぐうちにも
当事者である白の少女が無事に戻ってきたため、
何とかこちらの顔ぶれが全て揃って、さて。

「自分にだけ宿った特別な能力だとか、さすがにそこまでは思ってないよね?」

此処が穴場の心霊スポットだと 好奇心旺盛な十代の子らに勘違いされていた原因について、
とうに気付いているのだよと、やっとのこと明かそうとしているスポークスマン役の太宰嬢。
簡易灯籠なんていう、黄昏どきのようなぼんやりとした明るみの中でも
十分蠱惑的に映えている精緻な美貌、それは楽しげに、且つにんまりと、
いかにも含むもの有りますという毒を仄かに滲ませた 意味深な笑い方でほころばせて見せて、


「そちらは、そう…私が消して見せた隠れ蓑の書き割りもどきを出せる子と、
 あと もう一人、不思議なことが出来るお人がいるようだけど。」

くせのある蓬髪を長外套の背中まで伸ばし、
ようよう見やれば結構怪しい風体のロン毛のお姉さま。
そのっくらいはとうにお見通しと告げてから。
ピンと立てた人差し指をちっちっちっと振って見せ、

「こっちは此処に居る5人全員、いろいろ出来る異能力者揃いなんだな。」

そうと告げたところ、

 「な…っ!」
 「馬鹿なっ。」

怪しい輩一同が、揃って愕然として見せたのがなかなかに印象的で。
いかにも衝撃の事実を突きつけられましたというよな反応だったあたり、
帝都では本当に奇跡のような扱いなのか、
それとも単に 此奴らが一般人に毛の生えた程度の等級の輩だっただけなのか。

 「帝都担当の軍警や市警は、余程のこと機密保持を徹底しているのだろうね。」

 「報道という格好では
  欠片ほども一般へ報じられていないということだろうからな。」
 「大方、芸能風俗分野とし、スポーツ紙にお任せしているんだろうさ。」

河童や浮遊円盤扱いなのさと肩をすくめつつ、
そこを褒めるのはどうかとも思うけど、
人心掌握には大事だよね、情報統制…などと、
太宰に国木田、中原という22歳組が妙に納得の程度でうんうんと頷いて見せたりして。
またぞろ眼前の脅威なはずの野卑な男どもを視野に入れぬままの態度であり、
本来ならば恐れて余りある
危険なオオカミを前にしているとは到底思えぬ 余裕のそれとしか見えず。

「…ちっ。」

確かに女だてらに場慣れしている顔ぶれではあるらしいと、
リーダー格なのだろか、
頬までその陰が広がる、髭の剃り跡が浅黒い男が
忌々しげに眉をおっ立てて舌打ちをした。
だが、太宰の並べた言いようから
まだこちらの誰がその異能者かまでは判らぬらしいと踏んだか、

「…、」
「……。」

左右の仲間内へ素早い目配せを送る。
乱闘においては場数も踏んでいる連中ではあるようで、
それだけであっさりとスイッチが入ってだろう、

「こんの野郎っ!」
「取り澄ましてんじゃねぇよっ。」

青髭ともう一人を居残し、
結構 見事な瞬発力で一斉に駆け出し、こちら陣営へ飛び掛かって来たのだが、

 「…っ。」
 「哈っ!」

迎え撃ったのは国木田と敦の二人。
踏み出したの間合いの調整か、
一番手に駆け寄ってきた手合いの手首を眼鏡の女史がそりゃあ的確に掴み取り、

 「せいっ。」

洗濯機の中でもみくちゃになってたバスタオルをパンと広げるような鮮やかさ、
スナップを利かせた一振りで、
相手の四肢が勢いよく広がったほど遠心力付きで ぶんと頭上を舞わせたそのまま、
ぽいっと背後へ投げ捨てており。
自分に何が起きたかも判らぬのに、受け身など取れようものか。
げぇと唸ったそのまま、一見文学系の女性に易々と抛り投げられている無様さよ。
片やの敦も、ふんわりした華奢な風貌とは裏腹、
しなやかな脚をぐんと折り、かかとは立てての深々としゃがみ込んだ次の瞬間には、

 「…わっ。」

突っ込んでいったはずの男が、
同じほどの加速に乗って飛んできたのだろ、目の前へ唐突に姿を現した白い影へギョッとする。
たたらを踏んで前へつんのめったことで晒された背中を
上からの肘打ち一閃、あっさりと足元へ潰し伏せ。

 「…っ。」

そのまま勢いよく蹴上げた脚の先、
次の手合いから振り下ろされんとしていた木刀を靴底で的確に受け止めており。
振り下ろしと迎え打ちとががっつり衝突したせいだろう、
押し負かされた得物の側がばっきり砕け折れたせいで、
支えを失い、勢い余って倒れ込んで来た輩を、
こちらも蹴った反動でその身を半分回すと、
背後に繰り出した手刀にて“せいっ”と薙ぎ払っている手際の良さで。
軽快な動線に沿うて、少女の銀髪の裾が弧を描いて躍り、
夜陰の中、冴えた印象を華やかに彩る。

「うわぁっ!」
「ぎゃっ★」

みっともない声上げて、そのまま床に長々伸びるしかなかった其奴らを皮切りに、
さあ お次お次と 次々に手を取られ腕を掴まれ、間合いへ引っ張られのした末に、
先鋒の数人、ものの数秒もかからずあっさりと畳まれている呆気なさ。

 「ちぃっ。」

居残ったうちの 其方が書割での隠れ蓑担当か、
吊り目の若いのが口許歪めたものの、そうそう続けて使える異能ではないものか、
苛立った様子ながらもほぼ棒立ちになっており。

「谷崎さんの“細雪”みたいな、という訳でもないのかなぁ。」

探偵社の似たような異能を操る先輩格のことを思い出したらしい虎の子嬢の呟きへ、

「一緒にしちゃあ谷崎くんに失礼だぞ、敦くん。」

男勝りな口調でそうと応じた太宰が、胸高に腕組みをしたまま くくっと笑う。

「だってあの子のは、スクリーンもそりゃあ自然なその上、
 それを操るあの子自身も気配を完全に消せる達人だからね。」

ポートマフィア生え抜きの遊撃隊、彼の黒蜥蜴を率いる広津柳浪が、
辣腕な暗殺者向きと評したほどに、
日頃の甘くて優しいヘタレっぷりを補って余りあるほど
冴えた覚悟の下では驚くべき横顔を見せもする凄腕のお嬢さんなのであり。
そうと続けたまま、それは優雅に腕を延べると、
後輩さんの胸の前へ渡すように伸ばし、飛び出さぬよう遮ってから、

「隠れてる側の殺気がこうまで洩れてる連携のまずさでは、
 隠れ蓑としてあんまり意味ないってもんだよね。」

相手の殺気に相対すそれを放っていてか、
生気を照らし出す輝きというもののない 昏い双眸をきゅうと眇め、
再び くくと短く笑ったその身を目がけて。
突然捲き起こったのは その場の空気をびりびり震わせるほどの轟音で。

「死ねやっ。」

当初は彼女らの中の何人かを誘拐してゆくつもりだったらしく、
なのでと初手には出さずに伏せていた人員があったらしい。
書割担当の青年がサッと退いたところは、
何と外へ大きく開いていた中庭への昇降口だったようで。
二枚目の偽装壁が剥がれたそこに詰め掛けていたのは、
夜陰のその輪郭を塗りつぶす、安っぽい黒服で身を覆ったどこぞかの組織配下らしき輩ども。
此処を引き払う応援にと一味が呼んでいたようで、
いかにもな荒らしっぷりをし、自分たちの痕跡を塗りつぶす構えだったらしいが、
機関銃や短銃での一斉掃射でそれをやらかすとは、

 “破れかぶれも此処まで来ると、バックに付いてる奴の大きさ賢さも知れるなぁ。”

自慢しちゃあいかんが、
銃による抗争も珍しかないヨコハマの警察は弾痕の分析もダントツで、
ブツそのものの流通に関しても、異能特務課という特殊な部署も参与しての
そこそこどころじゃあない等級で把握している恐ろしさなので、
足が付くはずないなんて簡単に構えていては泣きを見る。

「仲間内も巻き添えになっていいなんて、
 非情というよりそこまでは考えてなかったか、それとも保身しかない奴なのか。」

一番手前に居た恰好の、口上役の太宰が真っ先に
凶悪な弾幕に砕かれ刻まれるかと思われたし、
女のくせにいかにもインテリぽく
偉そうに構えやがってと大方ムカついていたのだろう。
上玉だったがあれでは使えぬ、
むしろいい気味だと口許歪ませ、嘲笑っていた青髭野郎だったけれど。

 “え?”

同じ女性の声が相変わらず淡々とそんな言いようを紡いでいるのが
よく通るお声だったため、しっかと聞こえて。

 “…若しかして そういう異能を持ってやがるのか?”

銃撃なんて怖くないという、絶対防御の異能者なのかと、愕然としかかったものの、

 「そう来なくっちゃなぁ。」

別の声がそこへとかぶさる。
夜陰さえ引きちぎらんというよな轟音と衝撃波が満ちた空間は、だが、
ようよう見やれば、向こう側はいやに静かなままなようで。
硝煙や弾丸の放つ熱のせいだろか視界がけぶってはっきりしない中、
それでも目を凝らすと意外な光景が見えてくる。
口上役の外套姿の女も腕組みしたまますっくと立っているままだわ、
格闘にと勇ましく立ち回っていた長身の女史と銀髪の少女も平然と立っているわで、
天井から下がっている簡易灯籠も揺れてさえいない。
そして、砂色の外套を腕まくりしている小生意気な女史の横に、
いつの間にか 対照的な黒ずくめの女性が進み出て来ており、
黒革の手套をはめた片手を開くと 顔の高さに立てていて、
もう片手では帽子の胴を押さえているのがいやに小粋。
片や、そちらも相手の様子が見えているがため、
一体どこへ誰へ撃ち込んでいるものか
手ごたえの無さ過ぎる銃撃に、だんだんと顔が引きつり始めた黒服ら、
手元が次々に軽くなり、いつの間にか弾倉帯も尽きての空撃ち状態になって、
耳を聾するような銃声も掻き消えた空間へ、

「埃の立つ暴れようしか知らねぇのかよ。」

呆れたというよな呟きが聞こえ、
声を発した主を見やれば、
小ぶりな輪郭をなお引き締める
黒い手套に覆われたその手をぐっと握りしめた女傑様。
途端に、
ガチャガチャ、じゃらじゃら、
それこそ雨のように止めどなく、ぶつかり合うよな金属音が辺り一帯に鳴り響く。
標的へ届かぬまま宙でとどまっていた弾丸が、
真っ向から抑え込まれていた圧から解放され、次々と足元へ零れ落ちている音に他ならず。
力場の歪みもあってのこと、モザイクが掛かっているかのようだった視野が晴れれば、
冴えた白い頬が目に付いていた外套姿の女の前から、暗幕のような影がするりと退いて、
後背に控えていた黒外套の少女の痩身に戻ってゆく奇妙な様子もはっきりと見えて。

「ありがとう、芥川くん。」

ちろりと肩越しに礼を述べた姉様へ、
口許へ手を添えた黒の少女、小さな声で 何かしら応じたらしいところを見ると、
彼女を庇っていた楯のような黒い何か、
それが先刻その女が言った“この場にいる5人全員が異能者だ”という片鱗だということか。

「そ、そんな…。」
「信じられん。」

いっそ都市伝説らしくド派手な銃撃戦の跡のようにしてしまえと、
随分と、それこそ非常識なほど、これでもかという弾幕を降りそそいだはずなのに。
俺ら夢でも見ていたのか、いやいやそんなことはなかろう、
まだ手がしびれているし、手にした銃も余熱で熱い。
それに、周囲に垂れ込めた漆黒の中、
畑の向こうという遠くにぽつぽつと明かりの粒が灯り始めており、
早寝のここいらの人らでも今の騒ぎは聞こえたか、
何だ何だと通報されるのは時間の問題。
いつまでも此処に居ては今度は自分らの、
しいては此処へ援護の一団を武装付きで寄越した後援の人物の身がやばい。

「おっと、簡単に逃がすと思う?」

まだ熱いのは同んなじの、雨あられと撃ちまくった弾丸を、
ひょいと腕を煽るように持ち上げて見せ、
やはり触れもせで宙へ浮かす“異能”を披露しつつ、
そのまま腕を振って、季節はずれの豆まきよろしく
ほれほれ鬼は外だとこちらへ投げてくる黒帽子の女であり。

「うわ、熱っついっ。」
「顔は辞めろっ、あつつつつっ!」

信じがたいが現実のものとして身に降りかかる攻勢だけに、
ぼんやり見とれているどころではなく。
熱い熱いと喚きながら逃げ回る傍ら、
反撃をと構えてか、再び弾倉を組み入れて銃を構えたクチへは、

「ぎゃあ、何だこれっ!」

先程前衛に居た姉様を庇ったのと同じものか、
夜陰へすべり出し、宙を舞って黒っぽい何かが飛んで来て、
銃身に食いつくとばきりとへし折る過激さであり。

「弾丸も何もかんも、
 食らい尽して持ち去れば証拠は残らないとでも踏んでたのかしら。」

確かに、随分と無茶な段取りを繰り出したが、
それを言うなら何を繰り出してもそれがどうしたという涼しいお顔、
いやさ、強かそうな態度を崩さない胡散臭さで通した彼女らはその上を行ってはないか?
何だこいつらと青髭のリーダー男の焦りがどんどん嵩じてゆく。

「ムカデだなんだで大さわぎしてやがったくせに、」
「おや、そこから聞いてたんだ。」

あらまあと手のひら開いての愛らしい仕草、
口許を覆うよにかざして見せた蓬髪の姐様だったものの、

「女ってのはね、
 好きな人の前じゃあ小虫にだって飛び上がっちゃうけど、
 スイッチ入って腹が座ると踏みつぶして前へ進めちゃうんだな。」

ふふんと笑って、太宰が肩をすくめたの、
後ろに居て見ていた黒獣の姫が、

 “おや、それではやはり。”

自分も黒Gへは怖がった方がいいのだろうかと小首を傾げ、
のちに いや其処は頑張ってと太宰から改めて要請されるのだが、それもさておき。(笑)

「こ、これは堪らん。」
「話が違うっ。」

結構自信満々という顔つきで銃を抱えて現れた一団が、
だがだが、思いも拠らぬほどの逆襲の過激さに閉口したのだろう、
端から徐々に、途中からは置き去りにされては堪らんとばかり
駆け出すほどのどっとというノリで尻尾を巻き始め。
他人ごとなら笑える情けなさだが、それを頼みにしていた側はそうはいかぬ。

 「…畜生っ!!」

睨みすぎて目の縁が裂けてしまいそうなほど、眦見開いてこちらを見据えると
こけた頬の青みが増したよに見える青髭の頭目が、
しゃにむに腕を伸ばし、失速気味に駆け出してくる。
虎の威を借る存在がそれと気づかずに気が大きくなってたようで。
その楯が無くなってしまった…というか、効果なしと叩き折られた失意の大きさはいかばかりか。

「あ、貴様っ!」
「中也さんっ!」

丁度一番手前という位置に立っていた、二人の女傑のどちらかへの攻勢に見えたのだろう。
それぞれを慕う黒と白の少女らが、
ギョッとして踏み出すと、懸命に手を伸べて来たのがまずかった。
白いシャツに包まれた華奢な背と、
猫っ毛を伸ばした黒髪がふわり浮かんだやはり小さめの背中が、
跳ね上がるように駆けだしたのを見てとった国木田の視野の中、

 不意に ふっと、

有り得ない現象が起こって、え?と息を呑む。
自分もまた武装探偵社の一員であり、
異能かかわりのあれこれにも多く関わって来たけれど、
この手の奇異な現象には、
まだまだ“そういうもの”としての慣れがすんなり出て来ることはなく。

 ましてや、消えたのが大事な仲間とあっては、

 「な……っ。」

慣れるなんて無理な相談。
何があったのだと、口をついて出たのは恫喝に近い大声だったし。
手帳を手に、あらかじめ書いておいた頁をつい破りかかったが、
それは太宰の手が伸びて来て制された。

「電撃銃なんて、勿体ないよ。」

第一、スタンガンなんて起動させたら、取り込まれたあの子たちへも影響するかもと、
落ち着かせるような静かな声で短く言って、
国木田の瞬発力に手際よく追いつくと何とか抑える勘の良さよ。
そう、彼女らの眼前で、すうとその姿が掻き消えた、虎の子ちゃんと黒獣の姫だったが、

 「ほら、出して出して。」
 「な・…っ。」

同僚を落ち着かせたそのまま、返した手で手荒にポンポンと
こちらへ掴みかかって来ていた青髭男の肩を叩けば、
その身が光って、今の今 宙に消えた少女ら二人が動画を巻き戻したように飛び出してくる。

「わっ。」
「え?」

彼女らを“取り込んだ”のは、ご本人の意図ではなかったらしいが、
それでも取り込んだ事態自体は想定内だったのだろうに。
それが逆回しの動画のように、あっさり解かれたものだから、
え?という不審そうな顔になった辺り、彼の意思を無視した運びだったらしく。
文字通りの力づくで起きた一連の現象へ、

「私の異能は、異能を無効にする力なんでね。
 この程度の異能では、私にかかりゃあ無能も同じだ。」

ややこしい言い回しをさらさら並べ、
ふっふっふっといかにも居丈高な態度で笑って見せてから、

 「キミが“ポーター”くんだね?
  異能はさしずめ“デイバッグ”ってところかな?」

まったくもって、何をどこまで知っており、どこまで優位に立っているやら。
此処までくると、
もはやそこいらにいる同世代の女性の中へ紛れるなんて図々しいにもほどがあろう、
弓なりにしなわせた背条も、意味深にほころばせた口許も、
エレガンスだなんてとんでもない、ただただ手ごわそうな存在感を醸すだけの強かな女傑。
もはや悪魔のようなと言っても言い過ぎではないだろう
砂色の外套、夜風に裳裾をなびかせながら、ふふんと笑った太宰嬢であり。

「どんな大きさのものでも重かろうが燃えてようが構わず収納できてしまう。
 生きてるものや意志のあるものも、数量限定ながら収納可で、
 そこを生かして盗みを働いていたものが、このごろではやばい物品の運び屋をやってる。
 文字通りその身一つで移動出来るんだもの、検問にも引っ掛からないし、
 取り引き相手にしても、
 収納している物を渡してほしけりゃあ殺したり害するわけにもいかないものね。」

居丈高にならず、せいぜいお行儀よく振る舞っておれば、
かなりの大物とも取引は可能な美味しい能力だよね。
向こうだって卒のない態度であたる分には何度も利用してくれたでしょう?
伝手も増えてって得意先も結構あるのでしょう?

「こっちとしてはその辺りも白状してほしいのだけれど。
 まま、取り調べはその筋の専門家に任せるとして。」

へなへなっとその場に頽れ落ちるよに座り込む相手へ、
手際の良い段取りを提案してから、
何か思い出したというよな素振り、包帯が手首まで侵略している両手をぱんと叩き、

「そうそう。誘拐してった顔ぶれの行き先だけ、先に白状しといてくれる?
 そうすりゃあ、そうだなぁ、
 喉が潰れて話しづらいとか、そんな後遺症が出るよな扱いはしないでいといてあげるんだけど?」

そうと囁き、睫毛を伏せたその向こうから透かし見るよな見つめようをする。
艶っぽく見せておきつつも、その内心には何が潜んでいるものか。
少なくとも結構な長身の真上から、
見下ろすように問う姿勢には甘えや擦り寄る気色は微塵もなくて。

 「ほら、とっとと腹をくくりなさい。
  でないと、ポートマフィアのお姉さんが、
  性懲りもなく虎の子引っ張り込んだの根に持って
  あんたなんか引き裂いてやるって怒りだしちゃうよ?」

 「おうよ。ウチのかわいい敦をよくも攫おうとしやがってっ

そちらさんも袖をまくってた白い腕を肘で折って天へ向けて立てると、
手套に包まれた手を天へ向け、不気味に折り曲げた指、バキバキ鳴らして脅して見せる。
しかも、もう一方の手には、どこで拾って来たものか、
女性が、しかも片手で 床から浮くほど持ち上げられるはずがない
学校教材用の“平均台”を木刀扱いで握ってもいて。(うわぁ)


  だから言ったでしょう? ご愁傷様ですって。




to be continued.(18.06.15.〜)




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 *何か思ったより長い話になっておりますね。
  ちょっとおふざけってつもりだったのになぁ。
  とりあえず、これで夜中のドタバタは終了です。お疲れ様でした。